コバトンとは?埼玉県マスコットの誕生秘話・由来・さいたまっちとの関係を解説

埼玉県のマスコット「コバトン」を、どこまで知っているだろうか。
病院にも、県営施設にも、学校給食の牛乳パックにもいる、あのパステルカラーの鳥。多くの県民にとっては「気づいたらそこにいた存在」だ。
だが経歴を追うと、コバトンは想像よりずっと数奇なキャラクターである。デザインしたのは工業高校に通う一人の高校生。しかも応募されたのは、本人が出すつもりのなかった方の作品だった。
名前は17,471通の公募から決まり、国体の終了とともに役目を失いかけたところを県民の声が引き止め、いまでは太陽系を回る小惑星の名前にもなっている。
SAITAMAZINEは、埼玉から生まれる小さな挑戦を記録するメディアだ。教室で10分ほどで描かれた1枚の絵が県のシンボルになるまでを、順を追って辿っていく。
コバトンとはどんなキャラクターか

コバトンは、埼玉県の県民の鳥「シラコバト」をモチーフにした埼玉県公式マスコットだ。誕生は2000年5月31日。現在の肩書きは「埼玉県特命宣伝部長」で、県内キャラクターが集う「ゆる玉応援団」の団長も兼ねている。おっとりマイペースな見た目に反して、活動範囲は県外・海外にまで広い。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | コバトン |
| 生年月日 | 2000年(平成12年)5月31日 |
| 性別 | 不明 |
| モチーフ | 県民の鳥「シラコバト」 |
| デザイン | 竹腰博晃さん(応募当時・埼玉県立川越工業高校在学) |
| 命名 | 小松稔さん |
| 役職 | 埼玉県特命宣伝部長/ゆる玉応援団団長 |
| 性格 | おっとりマイペース、ただしフットワークは軽い |
| 特技 | コバトン語を話せるらしい |
デザインと名前が別々の人物によるものだという点は、意外と知られていない。コバトンは一人の作家が生んだキャラクターではなく、二度の公募を経て県民の手で組み上がったキャラクターである。
「コバトン」という名前の意味
「コバトン」は、シラコバトの略称「コバト」と「バトン」を掛け合わせた造語だ。
命名者・小松稔さんが添えた趣旨はこうだった。彩の国まごころ国体のマスコットとしてあちこちを軽やかに飛び回るシラコバトは、人から人へ、大会から大会へ、熱意と真心をつなぐバトンのような存在である。
単なる語呂合わせではなく、キャラクターに役割を与える名前だった点が重要だ。「つなぐ存在」という定義が最初にあったからこそ、国体という期限つきの役目を終えたあとも、コバトンは県のシンボルとして機能し続けられた。
誕生の物語——高校生のデザインが埼玉のシンボルになるまで
ここからが本題だ。コバトンの誕生から定着までの5年間は、SAITAMAZINEが記録したい「小さな挑戦が転がっていく瞬間」の連続でもある。教室で生まれた原画が、偶然と県民の声に押されて県のシンボルになるまでを追う。
795点の頂点に立った高校生の課題作品
2004年に埼玉県で開催される第59回国民体育大会「彩の国まごころ国体」。そのPRのため、2000年に県はマスコットイメージを一般公募した。
応募したのは、当時埼玉県立川越工業高校に通っていた竹腰博晃さん。きっかけは、デザインの実習授業で「埼玉国体のマスコットに応募してみないか」という話が出たことだった。制作はコンピュータグラフィックスの授業時間内。本人は後年、5分から10分ほどで描いた記憶だと振り返っている。
2000年5月31日、応募総数795点の中から最優秀賞が決定。作品名は「『シラコバト』をモチーフにした作品」だった。原画のシラコバトは現在よりくちばしが長く、全体的にスリムで、いまの丸いシルエットとはかなり印象が違う。この日がコバトンの誕生日とされている。
提出されたのは「出すつもりのなかった方」だった
さらに驚くのは、この作品が世に出たのが偶然だったことだ。
竹腰さんは2案を制作していた。力を入れていたのはサクラソウをモチーフにしたデザインで、シラコバトの案はもう一方。応募作業を担当した当時の指導教諭・吉澤勝則さんは、動きのあるデザインで県を代表するモチーフという観点から、シラコバトの方を選んで提出した。竹腰さんがサクラソウを出すつもりだったと判明したのは、その後のことだったという。
先生の取り違えがなければ、コバトンは存在していない。埼玉のシンボルは、教室の中の小さな行き違いから生まれている。
17,471通が集まった愛称公募
最優秀賞に選ばれた時点では、まだ「コバトン」という名前はなかった。
竹腰さんの原画はデザイン補作を経て現在の姿に整えられ、競技別の展開画も制作された。その上で、あらためて愛称が公募される。集まった応募は17,471通。2001年2月21日、第59回国民体育大会埼玉県準備委員会の審査を経て「コバトン」が選ばれた。
デザインで795点、名前で17,471通。合計1万8千を超える応募が一つのキャラクターに注ぎ込まれた事実は、コバトンが「県が用意したキャラ」ではなく「県民が選んだキャラ」であることを示している。
グッズ1億円——牛乳パックから広がった知名度
もっとも、誕生直後の評判は芳しくなかった。当時の反応は「なんじゃこりゃ」「知らん」といったもので、認知度はほぼゼロ。国体実行委員会は2つの作戦で押し切った。ありとあらゆるイベントに着ぐるみを出演させること、そして多様なコバトングッズを開発して販売することである。
転機は思わぬところから訪れる。イベント会場で小学生が「あっ、コバトンだ」と反応した。理由を尋ねると「給食の牛乳にコバトンが書いてあるもん」。日常に埋め込まれた接点が、先に子どもたちの記憶を押さえていた。
地道なPRとグッズ展開が実を結び、2004年の彩の国まごころ国体は成功のうちに閉幕。コバトングッズの販売額は総額1億円を突破し、国体の運営費用の一部に充てられた。キャラクターがイベントの収支を支えるという、当時としては異例の成果である。
県民の声で決まった「再就職」
国体が終われば、大会マスコットの役目も終わる。通常はそこで姿を消す。
ところが県庁には、コバトンの存続を望む声が数多く寄せられた。2004年12月、国体担当者が原作者の竹腰博晃さんを訪問し、国体実行委員会が持つコバトンの権利を埼玉県へ譲渡することについて承諾を得る。そして2005年1月4日、上田清司知事から辞令が交付され、コバトンは正式に「埼玉県のマスコット」となった。
デザインを選んだのも、名前を付けたのも、そして役目を延長させたのも県民だった。コバトンが県内で強い支持を保ち続けている理由は、この5年間の積み重ね方にある。
コバトンのモデル・シラコバトとは

コバトンを語るうえで避けて通れないのが、モデルであるシラコバトの存在だ。名前に「シラ」とあるのに白くない。そして、県民でも見たことのない人がほとんどという状況にある。
「白い鳩」ではない県民の鳥
シラコバトはハト科の鳥で、シラバト、ノバトとも呼ばれる。キジバトの仲間だがやや小型で、尾が長くほっそりした体型をしている。体色は淡い灰褐色で、首の後ろに黒い輪状の線が入るのが最大の特徴だ。名前から白い鳩を想像しがちだが、実物は白くない。コバトンがベージュに近いパステルカラーなのは、モデルの体色を素直に写しているためである。
1956年(昭和31年)に「越ヶ谷のシラコバト」として国の天然記念物に指定され、1965年(昭和40年)11月3日には埼玉県の「県民の鳥」に指定された。越谷市では市の鳥にもなっている。日本にいる個体は江戸時代に狩猟用として移入されたとする説が有力で、将軍家の御猟場が置かれた県東部を中心に定着した。
1万羽から数十羽へ——シラコバトの現在
かつてシラコバトは、県東部の田園地帯や養鶏場の周辺でごく普通に見られた。1980年前後の調査では推定生息数は約1万羽とされ、分布は1都4県に及んでいた。
状況が変わったのは2000年頃からだ。県内の養鶏場が大幅に減少し、鳥インフルエンザ対策で鶏舎への野鳥の出入りが遮断されたことで、餌場を失った個体数が急減する。埼玉県が2012年度から実施している生息状況調査では、確認個体数が越冬期で100羽前後という年が続き、報道では29羽まで落ち込んだ年も伝えられた。県は現在も県民から目撃情報を募集し、保護対策を進めている。
全国区の知名度を持つコバトンと、県内で数十羽しか確認できないシラコバト。この非対称は、キャラクターが本体を追い越してしまった珍しい例と言える。逆に言えば、コバトンを知ることは、絶滅の危機にある県民の鳥を思い出す入口でもある。
コバトンのすごい伝説5選

埼玉県公式サイトには「コバトン伝説」というページがあり、そこには一般的なゆるキャラの活動範囲を超えたエピソードが並んでいる。数あるなかから、埼玉への愛着が一段深まる5つを選んだ。
①小惑星になった——「コバトン星」
2009年10月4日、国際天文学連合(IAU)が太陽系を回る小惑星12031番に「Kobaton」と命名することを正式認定した。都道府県のマスコット名が小惑星に付けられたのは、これが初めてである。
名付け親は狭山市在住のアマチュア天文家・佐藤直人さん。1997年1月に発見し、追跡観測で軌道を確定させた小惑星だった。コバトン星は火星と木星の間を楕円軌道で約3年半かけて公転しており、地球からの距離は約4億キロ、推定直径は5〜10キロメートル。明るさは19等級のため肉眼では見えないが、夜空のどこかを飛び続けていることになる。
②辞令を持っている——公務員としてのコバトン
コバトンは2度、知事から辞令を受け取っている。2005年1月4日の「埼玉県のマスコット」就任、そして2014年1月6日の「特命宣伝部長」就任だ。
キャラクターに正式な補職辞令を出す自治体は多くない。役職を与え、職務を定義するというやり方は、コバトンが広報素材ではなく組織の一員として扱われてきたことを示している。
③年賀状が届く——手紙は住所不要
コバトンには毎年、ファンから年賀状が届く。2010年(平成22年)は11通だったが、翌2011年には1月13日時点で126通に増えた。差出人は県内が中心だが、四国や北海道から届くこともある。コバトンは受け取った年賀状に返事を書いている。
手紙は「〒330-9301 埼玉県県民広聴課コバトン」宛で届く。住所の記入は不要だ。郵便番号だけで県庁に届くこの仕組み自体が、ちょっとした伝説になっている。
④南極・チベット・宇宙へ
コバトンの活動範囲は埼玉県内にとどまらない。
2009年3月、埼玉県出身の宇宙飛行士・若田光一さんとともに、コバトンのぬいぐるみがスペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗した。自治体マスコットのぬいぐるみがスペースシャトルに搭載されたのは初めてのこと。真空パックのまま帰還し、NASA発行の飛行証明書とともに埼玉へ凱旋した。現在は加須市の環境科学国際センターで展示されている。
2010年11月には、さいたま市在住のエクストリームランナー・赤坂剛史さんが挑んだ南極マラソンに同行。7日間で250キロを走破するレースに帯同し、野生のペンギンとも対面した。杉戸町在住のプロサイクリスト・丹羽隆志さんとはチベットへ渡り、標高5,000メートル超の峠越えも経験している。
⑤「翔んで埼玉」とシラコバト
映画「翔んで埼玉」で、埼玉県民をあぶり出す踏み絵として登場するのが、シラコバトの焼き印が入った草加せんべいだ。GACKTさん演じる麻実麗がこれを踏めない場面は、作品を象徴するシーンの一つとして知られる。
この「しらこばと草加せんべい」は劇中用に作られたもので、同一商品の市販は確認されていない。ただし草加市の老舗せんべい店では、埼玉県の承認を得たコバトン柄の草加せんべいが販売されている。踏み絵にされた県のシンボルが、名産品として堂々と店頭に並んでいるわけだ。
さいたまっちとはどんな関係?

コバトンを調べていくと、必ずもう1体のキャラクターに行き当たる。相棒であり、ライバルでもある「さいたまっち」だ。両者の関係を整理しておく。
県民の日生まれ、バナナマンが開発に関与
さいたまっちがお披露目されたのは2014年11月14日、埼玉県民の日だった。この年はコバトン誕生から15年目、県マスコット就任から10年目にあたる。
開発の様子は、テレビ朝日の動画コンテンツ「バナナTV」の企画としてバナナマンの二人が進行する形で公開された。キャラクターデザインを手がけたのは、埼玉県秩父郡皆野町にゆかりのある設楽統さん。番組内で台湾の占いを受けたくだりが、赤を基調にした造形の下敷きになっている。好きなものが「バナナ」で、親友が「バナナマン(と本人は思っている)」という設定は、この開発経緯に由来する。
出身地は「コバトン星」。小惑星の名前が、そのままキャラクター設定として回収されている。
コバトンをライバル視するツンデレキャラ
埼玉県が公開しているプロフィールによれば、さいたまっちの性格は「可愛い顔の割には気が強く、気取り屋」。そして「コバトンをライバル視している」と明記されている。
目標は「世界に通用するエンターテイナーキャラ」。趣味は海外旅行、特技はどこへでも瞬時に移動できるジャンプ。トレードマークは「くりくりおめめ」とお腹のボーダーだ。おっとりマイペースなコバトンとは、性格設定が正面から対照的につくられている。
2体の役割分担
さいたまっちが誕生した背景には、ゆるキャラブームの中で「世界に通用するキャラクター」を目指すという県の方針があった。
コバトンは国体由来の地元密着型で、県内での定着度と信頼が武器。さいたまっちは対外的な発信を担う新世代で、強気なキャラクター性で埼玉を外へ売り込む。性格を似せず、あえて役割で分けたことで、2体は競合せずに補完し合っている。ちなみに着ぐるみを両方借りる場合は、必ず2体一緒に登場させるルールになっている。
コバトングッズの入手方法
最後に実用情報を整理しておく。コバトングッズはオンラインと県内店舗の両方で購入でき、条件を満たせば着ぐるみを借りることもできる。
公式オンラインショップ「コバトン屋」
インターネットでの購入窓口は公式ショップ「コバトン屋」。ぬいぐるみ、ハンドタオル、エコバッグ、缶バッジなどを扱っている。
主な公式グッズと価格(税込)は、コバトンLサイズぬいぐるみ(高さ約28cm)5,390円、Mサイズ(約14cm)2,530円、ジョッキー姿のパカパカコバトンLサイズ3,960円、缶バッジ220円、今治産のハンドタオル715円、ミニハンカチタオル550円、クリアファイル220円。県外からでも購入できる。
県内の店舗で買う
現地で手に取って選びたい場合は県内店舗へ。さいたま市内では、埼玉県庁衛生会館1階のコバトンカフェ、大宮ソニックシティ2階の埼玉県物産観光館「そぴあ」、県庁第2庁舎1階のアンテナショップかっぽ、浦和観光案内所、さいたま新都心観光案内所などで販売している。秩父市では秩父地場産センターが取扱店だ。取扱商品は店舗ごとに異なるため、目当ての商品がある場合は事前確認が確実である。
着ぐるみは無料で借りられる
意外と知られていないが、コバトンとさいたまっちの着ぐるみは無料で貸し出されている。イベントや祭り、結婚式などで埼玉県のPRを兼ねて使用できる。
手続きは、県内の貸出課所(地域振興センターなど)へ電話で仮予約し、使用申請書と企画書を提出して使用許可を受ける流れ。受付は使用日の3か月前の1日から、先着順だ。胴体は直径・高さとも1メートルほどあるため、運搬にはワゴン車が必要になる。なお、選挙運動での使用や、特定の個人・政党・宗教団体を支援していると誤解される使い方は認められていない。
また、コバトンのデザインは県の公式デザイン集として公開されており、ルールの範囲内であれば民間企業や県民も利用できる。営利目的での使用など一部は県の承認が必要だが、この開放性が、草加せんべいから給食の牛乳パックまで、生活のあちこちにコバトンが現れる理由になっている。
まとめ
高校生が授業中に描いた1枚。しかも本人が出すつもりのなかった方の作品。それが795点の頂点に立ち、17,471通の公募で名前を得て、グッズで1億円を売り上げ、役目を終えたあとは県民の声に引き止められ、ついには小惑星の名前にまでなった。
コバトンの経歴は、誰かの小さな一歩が、周囲の手で予想外の場所まで運ばれていく過程そのものだ。安心して挑戦できる都市・埼玉というSAITAMAZINEの視点から見れば、これ以上ふさわしいシンボルはない。
次にコバトンを見かけたら、少しだけ経歴を思い出してほしい。そして、モデルになったシラコバトが県内に数十羽しか確認されていないことも。埼玉を好きになる入口は、案外そんなところにある。
兵庫県神戸市出身。都会の喧騒を離れ、たどり着いた新天地・蒲生(越谷市)で第二の人生を謳歌する元商社マン。 長野出身の妻、そして年子(0歳・1歳)の育児に奮闘しながら、越谷の心地よさを日々実感しています。満洲の餃子をこよなく愛する、自称・越谷の関西代表。